2004年9月9日木曜日

巨大独占 NTTの宿罪

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巨大独占 NTTの宿罪
Posted with amazlet at 04.09.08
町田 徹
新潮社 (2004/08/26)
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おすすめ度の平均: 4.5
4 NTT社員です。
5 NTT株が上がらない理由がこの本を読んで、よく分かった!


今日の本命はこれです。
本屋にいってTOPにあったので、目次をみたらIIJの増資のことなども書いてあって詳細な本だなと思い、
興味がでたので購入しました。

私は仕事柄、NTTの方々とAM、SE問わずお話しできる機会が多く、特殊三社といわれる、
NTT東西のいわゆる地域会社、NTTcomそしてNTTの持ち株会社であるNTTホールディングス。
全ての会社の方々の現場の声を聞く機会があります。(偉いさんは知りませんがw)
上記だけではなく、子会社のネオメイトやMEの方々とお話した事もあります。
そういうNTT内部の方の意見を踏まえて、中立的なレビューを書きます。


所で、皆さんはNTTと聞いて何を思うでしょうか?
恐らく、BFlet'sやFlet'sADSLはたまた電話やNTTコミュニケーションズなど千差万別ではないでしょうか?

1999年のNTT分社化以前なら、共通サービスとして提供していたIP網(Flet's系などです)や
法人向けの専用線サービスなどは現在は、地域に縛られています。
当初は、県間のサービス提供さえ禁止されていたほどです。
コミュニケーションは、境界はないものの電話系での利益は薄く、この本にかかれているほどの
余裕っぷりではないというのが実情ではないでしょうか?

まずこの本は、NTTの優位点を明確にのべていてそれが不当に思えるという趣旨で書かれているのですが、
NTTは独占企業であり利権も独占できる立場であると同時にその立場のおかげで、NTTは不利益も享受している。
という現実が抜けている気がします。

固定電話(家電と思って下さい)にしろ、IP網にしろNTTは他の民間の通信会社と違い、ユニバーサルサービスが義務付けられています。
明らかに不採算地域であっても、サービスを提供しなければならないわけです。

しかも、電話は別としてもIP回線などの工事においても東西と協業関係にあるといえど、実質的に違う会社ですし、
何より、東京大阪間をつなごうと思うと西日本と東日本の間は別の網でつながなければならないというのが実情です。
国すらボーダレスのインターネットにおいて、こんなナンセンスな話はないと思います。

とりとめがなくなるのでこの辺でやめておきますが、確かに、NTTの仕事のやり方は明らかに他の民間と違ったクセがありますし、社会に対して圧倒的な力をもっているのは事実です。
ですが、現場の社員さん達に危機感がないわけではないですし、NTTならではの、悩み(ほとんどがNTT特別法によるものでしょうけど)というのもあるわけです。

光ファイバーの開放義務などもその一例でしょう(ファイバー網はNTTの分社後の資産を多く含んでいるので、ほぼ株式会社として
の保有資産だからメタル網と違い、国有時代の資産ではないので、国からうだうだ言われたくないというのが本音では?)

出版物は影響力のあるものです。ですから、批判を行う場合は、NTTならではのネガティブな部分もきっちり論じた上で、
それでも他の民間通信会社と比較して、こんなにNTTは優遇されているんだ。と論じてほしかったですね。

さて、この際ですので、以後はNTT単体ではなく、通信業界という視点で書いてみます。

まず、上でNTTも苦行を強いられているとは書きましたが、そうはいっても現在のNTTの体制や総務省ないしは監督局の姿勢には不満があります。

圧倒的なインフラ資産をベースとした、業界の価格の決定権やインフラを借りる際の料金などは改革されるべきだと私は考えています。

しかし、これはNTTのインフラを国税によって蓄積されてきたという事をベースにした意見であって、
一民間会社と考えるのであれば、また違った考えに達します。

NTTの、国有時代の資産をどう評価するのかというところで意見は分かれるのではないでしょうか。

私の考えをいうと、日本の通信業界全体の為にはNTTの利益追従の姿勢を弱くし業界全体に対しての積極的な参入、競争を促す為の資源の開放を行って欲しい。これに尽きます。

一案を言うと、民営後と国有時代のインフラ資源を明確に切り分けれるのであれば国有時代に拡充したものは
通信事業車間で、一定の均一な料金を払って使用できるようにすれば理想なのですが(無論NTTも同一の扱いで)
現実的にはそういった切り分けは不可能でしょう。

それに、NTT側からしたら「なんて自己中心的で馬鹿げた話をしているんだ」という所でしょうし。

さて、仮に洞道や管路を共有して使用できたとしましょう。
そこに自前でファイバーを引くわけですが、その体力のある通信会社がどれだけあるのか?というと非常に怪しいところだと思います。
結局の所、少なくとも通信の世界では、経済面においてNTTのファイバーを借りざるを得ないのではないかと考えてしまうわけです。
ここは、インフラの保有率が決定的な力をもつにも関わらず、保有に膨大なイニシャルコストがかかってしまうこの業界の難しさではないでしょうか。

しかし、局舎にしてもそうですがNTTには他の各通信業者には到底保有不可能な圧倒的な資産があるのは事実です。
資源競争ではなく、正常なサービス競争を促すのであれば、ある程度のNTT負担による既存資産の開放義務付けを期待するしかないのではないでしょうか?

さて、今後の通信料金の話ですが、電話に関してはNTTもIP電話と固定電話の置き換えを可能にするサービスを開始します。
電力系の「ひかり電話」と同様のサービスですが、IP電話が固定電話に置き換われば接続料等の問題も政府や官庁の馬鹿げた介入がない限りは今よりは市場向きになると思います。

電話はこれで希望があるとして、問題はIP網の料金です。

日本は、世界一品質がよく安価な通信網を持っているのは結構なことですが、現状の価格は正直にいってきついと思います。

IIJの鈴木社長が、以前に「このままでは日本のインターネットは崩壊する」という話をしておられましたが、(一部からはインターネットではなくプロバイダが崩壊するだけだろうという揶揄もあったようですがそれはさておきとして)
それを仮に過大な意見だとして、矮小に捕らえたとしてもアクセス回線が1Gbpsになればコア系のトラフィックはとんでもない数字になります。
もちろん、1Gbpsになったとしても全員が限界まで使用するわけではありませんから、指数関数的な増え方はしないでしょう。
それにしても、間違いなく急激な増加は想像できるはずです。
現状の技術の進歩共に質は向上し料金はほぼ変わらないという料金体系では、設備投資費及び維持管理費とユーザからの徴収の釣り合いが逆転してしまうことは明白ではないでしょうか。
原価を割るビジネスがビジネスとして成立していないのは言うまでもありません。

付け加えると、プロバイダが多数破産して完全に寡占化してしまうと現状の価格は維持されないでしょう。
また、地域系のISPなどが消滅するとサービスが提供されない地域もでてくると思います。
決してプロバイダの崩壊とインターネットの崩壊は別物ではないはずです。

過去を振り返ると、爆発的な通信料金の低下を実現したYBBの200万人が損益分岐点だというADSLの価格設定に各社が追従する結果になった事が現状の利益の低さの発端ではないでしょうか。
あの後、各社は当然の事ですがユーザ獲得の為にYBBに追従してほぼ同じくらいの価格を持ってきました。
ですが、全国展開しているISP系で200万人の会員がいるISPが何社あるか考えて見て下さい。
全社が自前というわけではないので、単純な比較はすべきではありませんが「きつい」というのは容易に想像できるのではないでしょうか。

通信業界は、普通の業態と違い生活インフラを担っています。ですから、通常の競争原理の働きにくい業界であると考えます。
決して、欧米の真似をすれば良いとは考えませんが(日本の文化や地理的な問題もありますし)この業界に対する独自的な方策が必要ではないのでしょうか?

少なくとも、現状の通信業界は、体力のある会社しか生き残れない世界です。こういった業界で寡占化が進むのは自明の理であると考えます。

業界全体としての模索の道を図れる機会が訪れる事を願います。


知識人からすれば私なぞ何も物知らない若造だと思うので、お恥ずかしい部分もあるのですが、私的な意見として書かせてもらいました。
感想、反論等あれば、コメントをいただければ幸いです。

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